【国立高専合格までの道のり】
― ひとりの少年と、見守る大人たちと ―
この春、教室に一通の報せが届きました。
「国立高等専門学校に合格しました!」
息を切らせて知らせに来てくれたKくん
教室中が一気に温かな空気に包まれたのを、今でも鮮明に覚えています。
国立高専――技術と知識を極めたいという意志を持つ中学生が、専門的な道に進むことのできる、日本でも数少ない特別な学び舎。
その門をくぐるには、ただ勉強ができるだけでは届きません。
学力はもちろん、強い意志と継続する力、そして自分の未来に真剣に向き合う姿勢が必要とされるのです。
Kくんとの付き合いは小学生の頃から。思い返せば、本当にいろいろなことがありました。
思い出をたどれば、まっすぐに努力できた日もあれば、うまくいかず心が折れかけた日も、数えきれないほどあります。
正直なところ、こちらも何度も迷いました。
塾として力になれていないのではないかと思い悩んだこともありました。
けれど、そんなときはいつも思うのです。
私はこの子を信じ支援し続ける。どんなことがあろうとも。
そして誰よりも、私よりも彼のことを信じ、心を砕いて見守っているのは、保護者さまだということを。
塾はあくまで「学びの場」のひとつです。
それに対して、ご家庭は、子どもが一番弱さを見せられる場所であり、一番安心できる港のような存在です。
その中で、保護者の方がどれほどの不安や葛藤と戦いながら、日々寄り添い続けてこられたか。
私たちも、日々の面談や電話、ふとしたやりとりの中で、その想いの深さに何度も心を打たれてきました。
勉強が苦手な時期もありました。
努力しても、何度も挑戦しても、どうしてもこの科目ができない。
宿題を忘れてしまう日も、塾に遅れて来る日もありました。
けれど、Kくんはそれでも、自分の足で塾に来続けてくれました。
苦手なことにも、自分なりに立ち向かって、投げ出さず、歩みを止めませんでした。
私はただ、それをそばで見て応援してきただけです。
もちろん、指導者として声をかけたり、学習の道しるべを示したりはしてきました。
ですが、最終的にこの合格を勝ち取ったのは、間違いなく彼自身の力です。
彼が諦めず、自分を信じて、自分の未来を見据えたからこそ、今日という日を迎えられたのです。
そして、彼は一度、心の奥深くまで追い込まれました。
どんなに努力しても成果が出ない焦り、周囲と比べてしまう不安、将来に対する漠然とした恐れ。
それでも、彼は負けなかった。決して、負けなかった。
負けそうな自分と戦いながら、ひとつずつ、課題に向き合ってきた。
それは他人に見せない、とても静かな戦いだったと思います。
でも私たちは、その姿をちゃんと見ていました。
子どもたちはまだ未完成で、未熟で、だからこそ成長の余地に満ちています。
体は大きくなっても、心はまだ道半ば。
社会はその外見に見合った“中身”をつい求めてしまう。
けれど実際の心の成長は、もっとゆっくりで、もっと繊細で、もっと不器用なものです。
私自身も自分のふがいなさに叫びたくなる日もありました。
それでも、子どもたちは今日も塾に来てくれます。
苦手なことに挑戦するために、自分を奮い立たせて、やって来てくれるのです。
遅刻、宿題忘れ、振替授業…。
思い通りにいかない日々はたくさんありました。
でも私たちは、そうした“前提”のうえで、どう工夫して教えるか、どう寄り添うかを考え抜いてきました。
真剣にこの仕事に向き合っている先生ほど、時に怒りに震えるほどのもどかしさを感じることがあります。
それでもなお、根底にあるのは教室に通ってくれる子どもたちの“無垢な心”を守りたい。
そんな想いが、私たちをもう一歩前へと進ませてくれるのです。
時間はかかりました。
一歩進んでは二歩下がるような時期もありました。
でも、ふとした時に「あれ?前よりも少し問題を解けるようになっているな」と思う瞬間があったのです。
その小さな“前進”こそが、彼の、そしてすべての子どもたちの努力の結晶だと思っています。
そして、そんな葛藤のなかでも、少しずつ力をつけていく子どもたちの姿を見ていると、
「ああ、信じていてよかった」と、静かに心が震える瞬間があります。
私は最近、強く思います。
子どもたちのなかにある、まだ形になっていない可能性を引き出すことこそが、「先生」と呼ばれる人間の仕事なのだと。
そのためには、ただテストの点数を上げることではなく、
自分で考え、選び、立ち上がる力を育てること。
「やってみよう」と思える心を支えること。
そして何より、「自分にはできるかもしれない」と思える希望を持たせてあげること。
今回の合格は、ひとつの結果に過ぎません。
でもそれは、彼の人生において、きっと大きな支えになるはずです。
そしてこれからも、いくつもの困難と出会うことでしょう。
でも彼ならきっと、大丈夫。
そう思わせてくれる成長が、そこにはありました。
ご家庭での支えがあったからこそ、Kくんは自分自身を信じ、歩き続けることができた。
私たちはその一部に関われたことを、心から光栄に思っています。
これからも、子どもたちの物語は続きます。
塾はその物語の“途中”にほんの少しだけ関わることができる存在。
だからこそ、その一歩一歩を大切に、まっすぐに、向き合っていきたいと、改めて感じています。
Kくん、本当におめでとう。
Kくんのこれからが、実りある未来でありますように。
そして、ここまで支えてこられたご家族の皆さまに、心より感謝申し上げます。
GWの帰省した際に来てくれたK君。
背も伸びて顔つきも精悍になり男の顔になった。もう少年ではない。
鍛えてるね。磨いてるね。逞しくなった。マジでカッコ良かったよ
小学生からの付き合いだよ。幼かったKくんが立派になったなぁ。ほんとに。
またいつでも来てな。