今年の節分は2月3日です。
おなじみの「鬼は外 福は内」。邪気を払い、家族の無病息災を祈る行事といわれています。
しかし、この時期にもう一つの「おにはそと ふくはうち」を思い出します。それは、大学生
だった時に友人と伊豆を旅したことがあります。お金もなく大きな旅館、ホテルには宿泊でき
ません。小さな民宿を利用しました。夕食時に、その宿の主人と雑談中に「あなた達は東京の
学生さんかね。おにはそと ふくはうちを知っているか」と尋ねられました。変な事を聞く主
人だなと思いながら「鬼は外 福は内」と答えたら、主人は紙にボールペンで「遠仁者疎途
不苦者有知」と書きました。なるほど「おにはそと ふくはうち」と読めます。
以前、この宿に泊まった禅僧が教えてくれたそうです。その意味・・・「仁」は人を思いや
る心。これを「遠」避けている者は人としての「途(みち)」に「疎(うと)」い。「知」恵
が「有」る者は何事にも泰然として「苦」しま「不(ず)」。ご主人から聞いたのはここまで。
さて、何やら奥深そうな「おにはそと ふくはうち」。その後、あれこれと考えました。本当
は「遠仁者疎途 不苦者有知」だったかもしれない。古代の日本には、言葉に宿っている霊力、
言霊(ことだま)信仰がありました。昔の人は文字が読めない人が多かった。とても難しい漢字
の羅列は伝えにくい。だから発音が同じで、意味も分かりやすく「鬼は外 福は内」として広ま
ったのではないか。もちろん、私の勝手で無責任な思いつきです。
禅僧は旅をしながら伝えたでしょうし、宿の主人も宿泊者に教え続け、私のように知る機会を
得た者も周囲に話す。この時期になると各地で、私のようにもう一つの「おにはそと ふくはう
ち」を思う人がきっといるでしょう。
人を思いやる気持ち「仁」。伊豆を旅して川端康成さんの「伊豆の踊り子」のような展開には
なりませんでしたが、「遠仁者疎途 不苦者有知」を記憶に刻むことができました。
竹本 啓自