・算数と数学では、使う脳の働きの比重が少し違うこと
・計算できても、関係や構造を考える場面で止まりやすいこと
・数学を伸ばすには、意味理解や図で考える力が大切なこと
この記事の著者:ヒーローズ東郷校の先生東郷町の個別指導塾ヒーローズ東郷校の先生。誰にでもわかるように、そして今日から実践したくなるよう勉強法から伝え、一生役に立つ学習習慣が身につく指導を心がけています。
ヒーローズ東郷校について
「計算はできるのに、数学になると急にわからなくなる。」
これは、かなり多くの子に見られることです。
親からすると、
「小学校の算数はそこそこできていたのに」
「計算ドリルは解けるのに、文字式や文章題になると止まる」
そんなふうに見えるかもしれません。
ここで大事なのは、“できなくなった”のではなく、“求められる脳の使い方の比重が変わった”可能性が高い、ということです。
もちろん、脳科学の世界に「算数脳」「数学脳」という正式な用語があるわけではありません。けれど研究を見ていくと、数の大きさをつかむ、計算手順を処理する、記号を意味として読む、関係を推論するといった場面で、関わる脳ネットワークの比重が少しずつ違うことがわかってきています。数や量の感覚には頭頂葉の一部である IPS(intraparietal sulcus) が深く関わり、難しい計算や学習初期には前頭前野などの認知コントロール系の関与が高まりやすいことが報告されています。さらに、数学的な推論では意味理解や視空間的な処理に関わるネットワークとの連携も重要になると考えられています。
つまり、ざっくり言えばこうです。
算数では、
数量感覚や手順処理の比重が高い。
数学では、それに加えて
関係理解や構造把握の比重が大きくなる。
この記事では、この違いを脳の使い方から整理しながら、「なぜ計算できる子が数学で止まるのか」を、できるだけわかりやすく解説していきます。
目次
1. 算数脳と数学脳は何が違うのか?まずは全体像を整理しよう
最初にはっきりさせておきたいのは、
算数脳と数学脳は“別々の脳”ではないということです。
右に算数、左に数学、みたいな単純な話ではありません。
実際の研究では、算術や数学的思考は、ひとつの場所だけで処理されるのではなく、複数の脳ネットワークが協力して働くものだと考えられています。数の大小を感じ取る、手順を保持する、注意を向ける、覚えた答えを取り出す、式の意味を理解する、図や空間の関係を見る。こうした役割が組み合わさって、私たちは「計算したり」「考えたり」しています。
では、なぜあえて「算数脳」と「数学脳」と分けて考えるのか。
それは、子どもがつまずくポイントを見つけやすくなるからです。
たとえば算数では、
- 5+7を計算する
- 12個を3人で分ける
- 3/4と1/2を通分して比べる
のように、対象が比較的具体的で、何をどうすればいいかが見えやすい問題が多いです。
一方、数学になると、
- x+3=10 の x は何か
- y=2x+1 では何がどう変わるのか
- 2つの条件から関係を整理する
- 証明で「なぜそう言えるのか」をつなげる
のように、見えない関係や構造を扱う割合が一気に増えます。
ここが大きな違いです。
算数は「答えにたどり着くための処理」の比重が高く、数学は「関係を理解するための処理」の比重がより高い。
もちろん算数にも考える力は必要ですし、数学にも計算は必要です。ですが、中心に置かれるものが少し違います。
たとえるなら、算数は「材料を正しく切って料理する力」、数学は「レシピの仕組みそのものを理解して応用する力」に近い。
包丁さばきが上手でも、味の構造がわからなければ、急にアレンジ料理で止まる。
数学で止まる子に起きているのは、わりとこれに近いのです。
2. 算数脳の特徴|「量をつかむ・手順で解く」ときの脳の使い方
算数の土台にあるのは、
まず数や量を感じ取る力です。
「こっちの方が多い」「8は5より大きい」「3つずつ4回で12」といった感覚ですね。
この土台に深く関わるとされているのが、頭頂葉の IPS(intraparietal sulcus) です。IPSは、数の大きさや量の比較、数量表現などと広く関連すると考えられており、算術研究でも中心的な領域として扱われています。
ただ、学校の算数は「なんとなく多い少ない」で終わりません。
そこに手順が乗ってきます。
- 繰り上がりのある足し算
- 筆算
- 分数の通分
- 割り算の筆算
- 面積の公式の利用
こうした問題では、「今何をしているか」を頭の中に置きながら、順番に処理していく必要があります。ここで大事になるのが、前頭前野などが担う作業記憶や注意のコントロールです。レビュー研究では、算術ネットワークにはIPSなどの数処理に関わる領域だけでなく、前頭前野や後部頭頂葉など、注意や作業記憶に関係する領域も含まれ、課題が難しくなるほどこれらの関与が高まりやすいと整理されています。
つまり算数でよく使われる脳の働きは、
「量をつかむ力」+「手順を守って処理する力」+「途中経過を頭に置いて進める力」
と考えるとわかりやすいです。
このため、小学校の算数で伸びやすい子には、次のような特徴が見られやすくなります。
- 数字に対する抵抗が少ない
- 計算の流れを追いやすい
- 決まった型を覚えて再現しやすい
- 正確さや丁寧さで点を取りやすい
これは悪いことではありません。むしろ算数では大きな強みです。
ただし、ここにひとつ落とし穴があります。
手順処理に強い子ほど、「やり方が決まっている問題」に強くなりやすいのです。
だからこそ、中学に入って「どの公式を使うか」だけではなく、「そもそも何がどう関係しているのか」を考える必要が出てくると、急に足が止まることがあります。
いわば、一直線のレールを走るのは速い。
でも、駅の地図を見て乗り換えを考えるのは別の力がいる。
算数で強かった力は、まず「きれいに走る力」に近いのです。
3. 数学脳の特徴|「関係を見る・構造で考える」ときの脳の使い方
では、数学でより重要になる脳の使い方とは何か。
ひと言で言えば、
見えない関係や構造を捉える処理です。
数学で子どもが急に戸惑うのは、数字が難しくなるからだけではありません。
本当の変化は、「数字を処理する」から「関係を読む」へ軸が移ることです。
たとえば x+3=10。
これは計算問題の顔をしていますが、本質は「何かに3を足したら10になる」という関係です。
一次関数も「グラフを描く作業」ではなく、「一方が変わると、もう一方がどう連動して変わるか」を捉える学びです。
証明ではさらに露骨で、「答え」よりも「なぜそれが言えるか」という論理のつながりが問われます。
このとき脳は、単なる数量処理だけでなく、意味のつながりを扱うネットワークや、図形・位置関係・変化の見取り図をつかむ視空間ネットワークも強く使うと考えられています。2025年の NeuroImage の研究では、数学的処理で意味ネットワークが広く関与し、特に数的な帰納推論では意味ネットワークと視空間ネットワークの結合が強くなることが示されました。さらに、2025年の別研究では、論理・計算・プログラミングを含む logical-mathematical symbol systems は、神経学的には言語だけでなく空間認知とも強い近さを示しました。
これはかなり面白い話です。
私たちはつい、数学を「数字の国語」みたいに思いがちです。式を読んでいるから、言語っぽく感じるのです。
でも研究を見ると、数学的処理は言語だけでなく、視空間的・構造的な捉え方とも強く結びついています。
だから、数学的な理解が進んでいる場面では、次のような見方が見られやすくなります。
- 文字式を“暗号”ではなく“関係の地図”として見る
- 図やグラフを、飾りではなく“意味の圧縮”として使う
- 公式を丸暗記するより、「なぜそうなるか」をつかもうとする
- 問題文の条件をバラバラに読むのではなく、つながりで整理する
つまり、数学でより重要になるのは、
「数を動かすこと」そのものより、「構造を読むこと」
に近いのです。
ここでよくある勘違いがあります。
「数学ができる子は、頭の回転がものすごく速い子だ」と思われがちですが、実際には、速さだけでなく関係の見取り図を作れるかが大きい。
もちろん処理速度も役に立ちます。けれど、数学で本当に差がつくのは、「何がつながっているか」を見抜く力です。
将棋で言えば、目の前の一手を速く打てる人より、盤面全体の形を読める人が強い。
数学で伸びる子にも、少しそれに似たところがあります。
4. なぜ計算できる子が数学で止まるのか|中学で起こる“脳の使い方”の変化
さて、ここが本題です。
なぜ計算できる子が、数学で止まるのか。
答えはかなりシンプルで、得意だった脳の使い方だけでは足りなくなるからです。
小学校の算数では、計算の正確さや、型に沿って進める力が、そのまま点につながりやすい場面が多くあります。
ところが中学数学では、「とりあえず手を動かす」だけでは進めない問題が増えます。
どの式を立てるか。何を文字で置くか。どの条件がどことつながるか。グラフは何を表しているか。
つまり、手順の前に“見立て”が必要になるのです。
脳科学の研究でも、算術学習の初期や難しい課題では前頭前野の活動が高く、発達や熟達が進むにつれて、前頭前野への依存が相対的に下がり、より効率的なネットワーク利用が見られる傾向が報告されています。レビューでは、年齢とともに前頭前野の活動が減少し、頭頂葉や後頭側頭部の関与が増える傾向、さらに算術トレーニング後に補助的な前頭領域の活動が減少することも示されています。
ここで大事なのは、“計算ができる”と“数学がわかる”は、重なるけれど同じではないということです。
たとえば、
- 計算が速い
- ミスが少ない
- パターンを覚えるのが得意
こうした子は、算数ではかなり有利です。
でも数学では、そこに加えて、
- 式の意味を読む
- 変化を追う
- 条件を整理して構造化する
- 「なぜ」をつないで説明する
といった力が必要になります。
だから、計算できる子が止まるとき、単純に「努力不足」と見るのは危険です。
実際には、まだ“手順中心モード”から“関係中心モード”への切り替えが十分でないだけかもしれません。これは能力がないという話ではなく、使うネットワークの中心が変わることで起こる自然な戸惑いです。
さらにもうひとつ大事なのは、数学で止まる原因は「抽象が苦手」だけではないということです。
2023年・2024年の研究では、算術力は頭頂葉だけでなく、左前頭葉や側頭葉の言語・意味処理にも関わる領域とも関連しており、暗記された算術事実の想起や、要求の高い計算時の言語的作業記憶の関与が示されています。つまり、土台には数量感覚だけでなく、記憶・注意・意味処理も絡んでいます。
なので、数学で止まる子にはいくつかのタイプがあります。
- 計算はできるが、式の意味がわからない
- 図やグラフになるとイメージがつながらない
- 条件整理が苦手で、文章題になると迷子になる
- 途中式は書けるが、「なぜそうなるか」を説明できない
- 基本計算が自動化しきっておらず、上位の思考に余力が回らない
ここを見分けずに、「もっと問題数を増やそう」とやると、親子ともに負担が大きくなりやすいです。
頑張っているのに、進んでいない感じだけが増える。
これは現場でもよく起きることです。
5. 数学脳を育てるには?家庭や学習で意識したい5つのポイント
では、どうすれば数学で必要になる力は育つのか。
ここで大切なのは、
算数の力を否定しないことです。
数学で必要な力は、算数を捨てた先に生まれるものではありません。
数量感覚、基本計算、手順の安定といった算数の土台の上に、関係理解や構造把握が重なって育っていきます。だからこそ、「計算ばかり」でも足りないし、「考えさせるだけ」でも足りません。両方が必要です。
ここでは、家庭や学習で意識したい5つのポイントを紹介します。
1. 答えだけでなく、「何と何がつながっているか」を聞く
「答えは合ってる?」だけで終わると、脳は“ゴール到達”の練習ばかりします。
それよりも、
「この式って、何を表してるの?」
「この数字はどこから来たの?」
「何と何の関係を見てるの?」
と聞くほうが、数学で大切な意味の結びつきが育ちやすくなります。
数式を記号の列ではなく、意味のある構造として扱う練習になります。
2. 図・表・グラフに置き換える習慣をつける
数学は、言葉だけで考えるより、見える形にしたほうが理解しやすいことが多いです。
最近の研究でも、数学的処理は視空間ネットワークとの関係が強いことが示されています。
だから、文章題で詰まる子ほど、いきなり式に飛ばず、
- 線分図にする
- 表に整理する
- グラフで動きを見る
- 図形なら書いて確かめる
といった「見える化」が有効です。
数学が苦手な子にとって、図は飾りではありません。かなり頼れる助けになります。
3. 公式は“暗記物”ではなく“圧縮された意味”として扱う
公式を覚えること自体は悪くありません。
ただ、公式をただの呪文にすると、少し形が変わっただけで使えなくなります。
たとえば一次関数の式も、ただ「y=ax+b」と覚えるのではなく、
- a は何を表すのか
- b はどこを表すのか
- x が増えると y はどう変わるのか
と意味で読む練習をすると、構造理解が育ちやすくなります。
公式とは、長い説明を短くたたんだものです。
折りたたみ傘みたいなものなので、広げ方がわからないと、ただの棒に見えます。
4. 「まねして解く」だけでなく、「自分で作る」経験を入れる
研究では、模倣的・手続き的に解き方をなぞる学習よりも、自分で構成的に考える学習のほうが、その後の成績や数学関連領域の脳活動に良い影響を示すことがあります。2022年の fMRI 介入研究では、creative mathematical reasoning で学んだ課題は、algorithmic reasoning で学んだ課題より成績が良く、数学関連領域の活動も高くなりました。
つまり、
「先生のやり方をそのまま再現できる」だけでは不十分で、
「自分で筋道を作る」経験が大切だということです。
たとえば、
- 逆に問題を作ってみる
- 別解を考える
- なぜそのやり方でいいのか説明する
- この条件を変えたらどうなるか考える
こうした問いを少し入れるだけでも、数学で必要な力はかなり育ちやすくなります。
5. “できない”を性格のせいにしない
これは保護者にも指導者にもかなり大事です。
数学で止まる子を見ると、
「考えるのが苦手なんだろう」
「センスがないのかな」
と言いたくなることがあります。
でも実際には、
- 計算の自動化が不足している
- 図に変換する力が弱い
- 言葉で条件整理する力が不足している
- 意味理解より手順依存になっている
など、原因はかなり具体的です。脳科学の研究でも、算術や数学は複数のネットワークの協働で成り立つことが示されており、「数学が苦手」という一言では片づけられない多様性があります。
だから大人が見るべきなのは、「この子は数学に向いているか」ではなく、
「どの処理で止まっているか」です。
ここを見誤らなければ、打ち手はかなり見えてきます。
6. まとめ|計算できる子が数学で止まるのは、不思議でも異常でもない
計算できる子が数学で止まる。
これは、珍しいことでも、能力が低い証拠でもありません。
それは多くの場合、
算数でうまくいっていたやり方だけでは、数学で必要な関係理解や構造把握に対応しきれなくなったということです。
算数では、数量感覚や手順処理の比重が高い。
数学では、それに加えて関係理解や構造把握の比重が大きくなる。
この2つは対立するものではなく、つながっています。
ただ、学年が上がるにつれて、後者の比重が大きくなっていくのです。
だからこそ、必要なのは「もっと計算させること」だけではありません。
- 式の意味を読む
- 図や表で関係をつかむ
- なぜそうなるかを説明する
- まねではなく、自分で考える経験を増やす
こうした積み重ねが、数学で本当に必要な力を育てていきます。
計算ができるのに止まる子は、伸びしろが大きい子でもあります。
すでに算数の土台があるからです。
あとはそこに、関係を見る力をつなげていけばいい。
言い換えるなら、その子は「できなくなった」のではなく、
次のステージの入り口で立ち止まっているだけかもしれません。
そして、入り口で立ち止まるのは悪いことではありません。
むしろ、本当に考え始めるのはそこからです。
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